何処から入ってきたのか?招かざる客に我が家は大騒動!
春になると新芽が出て草木が成長していこうとする。たおやかに空間を彩る桜は夜も穏やかで綺麗だ。その下にはタンポポやスズメノエンドウやスノーフレークやらが自生している。
近くの公園の芝が様々な花に彩られているのだが、我が家の庭も好き勝手に自生した草花が所かしこに咲いている。麗らかなこの季節、私の悩みは季節風が運ぶ黄砂と花粉、雑草と形容し難いこの草花の存在だ。
黄砂や花粉はまだ良い。部屋を閉め切って数台の空気清浄機を花粉除去で運転すれば良いのだから。問題は勝手に自生してしまっている草花だ。
花粉症が酷くならないように、出かけるのもマスクとメガネは必須アイテム。コロナ以前に花粉症対策でなくてはならないものだ。そんな私に草むしりは苛烈極まる自殺行為になってしまう。いつもは根っこまで枯らす除草剤を撒く主人だが、忙しさもあり放置状態になっていたため、これ幸いに伸び放題になってしまった。
別段、雑草ぐらいで大げさなと思われるかもしれない。しかし、雑草が伸びてしまうと、コンクリートで固められた家の土台に葉が付くため、虫が隙間から入って来てしまうのだ。そのため、除草剤の後に蜘蛛やムカデやゲジゲジにカマドウマのようなものまでの侵入を阻むため、殺虫剤や虫よけを周囲に撒いている。
現に過去には、それはそれは大きなムカデが堂々と入って来た。古来より毘沙門天様の使いとされているウンチクを知っていた私は殺生などできず、どうやって家の外に出てもらうか考えGoogle先生で調べたら、掃除機で吸引して逃がすのが良いとあったので試してみた。
いや、ムカデよ・・・滅茶苦茶素早い!!足がいっぱいあるからなのか?とんでもなく素早い高速移動だ。この時も真夜中の珍事であったが、見過ごすわけにはゆかない。
我が家には動くものに反応して喜々と飛び掛かる猫様がいるのだ。ムカデの毒は強烈なので、惨事になることは避けたい。
ゆえに、私と主人は是が非でもムカデにご退出願うしかなかった。吸引力抜群のダイ〇ンハンディクリーナーを片手に、ムカデを追いかける私。傍らには愛猫を抱きしめて見守る主人。
・・・・なんか、違う気がするんですけど?立場、逆っぽくない?
「ムカデ、居なくなった!!」
主人の声に我に返ると、ムカデの姿が消えていた。洒落にならない。真面目に刺されたら人間でもやばいから。恐怖しかない。
「あ、居た!」
主人の目線を見ると、下ではなく上を見ている。
「上?!なぜ、上?」
「カーテン伝いに上ったんだな、俺たちを見下ろしてる。」
奇妙な殺気を感じて見上げた先に、カーテンレールの上に上半身を起こして手?足?をワラワラと動かしながら見下ろすムカデの姿。完全にロックオン状態だ。
怒ってらっしゃる~~!!!
ムンクの叫びの如く、ひょぇぇぇっ!と叫びながら一瞬で涙目になった。
「マジでお使い様なんかっ?いやいや、殺生不味いから!!しないし!真面目に外に返すから!」
ナウ〇カのように噛まれても「ほら大丈夫」なんて言えない。パニック状態で掃除機のノズルを向けると、一層威嚇のポーズをとられる。昆虫という枠組み外の何かなのだろう、彼は私たちの行動を理解して行動をとっているのだ。彼をただのムカデとしてみてはいけない。
「あの、弱で吸うんで入ってくれませんかね。お外に返ってもらうだけなんで。」
誰と交渉してんのさ?と思うかもしれないが、この時の私に人間の矜持なんて無かった。頼んでどうにかなるものなら、円満解決が一番だからだ。
「お願い入って!!」
覚悟を決めてノズルを前に突き出し、カーテンレールをなぞるとコトッと音がしてムカデ様が入ってくれた。奇跡だ・・・。
「捕獲できたね。」
ホッとした主人の言葉に、やはり立ち位置が違うんじゃないか?とツッコミたかったが、ムカデ様との約束がある。
「近くの林に返してくるよ。」
入った瞬間に吸引を止めたので、ムカデ様は元気に動き回っている。虫かご化したダイ〇ンを小脇に抱え、夜道を歩く。
「放しても、戻ってこないでくださいね。」とか「できるだけ草が多いところが良いですかね。」とか、掃除機を抱えた女の独り言はなかなかシュールだっただろう。すれ違う人が居なかったことに感謝しつつ、家から離れた林の地面に近いところで蓋を開けた。
パサッと音がしてムカデが地面に降りたのを確認してから、その後ろ姿を見送った。
このような経緯があったため、草を家の土台に付けないことと、虫よけを家の周囲に撒くのは必須だった。しかし、最近を振り返ってみても除草剤を撒いただろうか?いやまだ撒いていない。しかも、虫よけも・・・だ。
こんな懸念を覚えていたある日の夜、主人が愛猫の奇妙な仕草を怪しんで私に確認する様に促した。
そっと覗き込むと、いつもカーテンに隠れて窓越しに外を見ている愛猫が、真逆の事をしていたのだ。彼女はカーテンから顔だけ出して天井を見上げている。しかも、その目が小刻みに揺れて何かをロックオンしているのだ。脳裏に何時ぞやのムカデ様がよぎったが、さすがに天井にはいないだろうとホッとした。
「な・・・何を見ているの?」
話しかけた瞬間、低重音のブーン!という嫌な羽音!居間を飛び回る大きなカメムシ!
スズメバチでは無いことに安堵しつつ、無言でダイ〇ンのハンディクリーナーを持ってきた。しかし、肝心のカメムシの姿が無い。またもや、見失ってしまったのだ。入念に辺りを見渡しながら視線を上に向けると、天井近くの額縁にいた。
「届かないから採って。」
むんずと掃除機を差し出し、主人に渡した。あっという間にカメムシを捕獲した彼は、「外に逃がしてくる」と言って出ていった。
ムカデ騒動から、きっと癖になっているのだろう。「二度と入ってくるなよ」と思いを込めて、今日も虫を放したのは言うまでもない。
