勘違いで缶違い?!

 皆さんは思い込みで買い物に失敗したことは無いだろうか?今回はそんな話の一つ。

 今から数十年前の新婚の頃の話だ。今でこそ、30分あれば3・4品の料理を作れる私だが、その当時は家事のいろはも料理のいろはも知らず、仕事帰りは献立を考えつつ買い物をする日が続いていた。

 たまの有給を使ったある日、家の近くの商店で日本酒を買った時の事。レジ近くの棚に乾き物と焼き鳥缶があるのが目に入った。そして、その脇に置かれた『とある缶詰』に惹きつけられた。

鯛みそ・・・?」

 皆さんはご存じだろうか?オレンジっぽい色の缶詰め桃屋さんの『鯛みそ』なるものを。

 この減塩・無塩料理のブログでも、製品表示を見るように皆さんに促している私だが、数十年前は頭がお花畑だった。そのため、缶の雰囲気から想像して鯛の身と味噌のような物が入っているのだと勘違いしてしまったのだ。まさに、蟹味噌や蟹缶もしくは、サバの味噌缶のような感覚で。

 サッと鯛みそ缶を大吟醸の隣に置くと、店主が目を丸く見開いた。

「多分だけど、思っているのと違うと思うよ?」

 店主よ・・・なぜに水を差す?

 主人が甘党でない事を周知している店主が遠回しに助言してくれたが、その時の私は鯛が入ってる缶って、なんて珍しい!くらいにしか思っていなかった。なので、そのまま購入して帰ってしまったのだった。

 意気揚々と家に帰った私は、大吟醸をと鯛みそを冷蔵庫に収めた。他のおかずを用意しながら、日本酒で晩酌をしている主人を思い浮かべにんまりとほくそ笑む。これでいつ帰って来ても居酒屋風な感じになる。しかも、鯛みそを添えれば鯛の身がほわっと香り良く、料亭風になっちゃうかも!などと、鯛みその製作者様が聞いたら、解し身なんて入ってないし勘違いも甚だしい状態だと残念がること間違いなしの状況を作り出していた。

 だから主人から帰宅の電話があって伝えた時も、「鯛みそ?何それ?」と言われてもノープロブレム!楽しみにしてておくれよ!と笑顔だった。

 全く、思い込みとは恐ろしいものである。私が致命的な間違いに気がついたのは、主人が帰宅してからだった。

 ジャーン!と効果音を言いながら、高らかに鯛みそを差し出した。しかも、ジャパ〇ット顔負けの口調で「これで300円以下!それなのに鯛が入ってる!!鯛みそ!!」と豪語する私に、「それ、本当に鯛入ってるの?」とつまらない事を言う主人。

 ならば!と、缶の蓋を開けた私は固まった。

「何じゃこりゃ~~~?!身・・・鯛がない?」

 茶色い滑らかな中身に驚愕していると、「・・・やっぱりね。」と笑いを堪えた主人が納得している。しかも舐めてみれば?と要求してくるではないか。彼は察しがついているようだ。

「!あまいっ!鯛は?あれ?・・甘いみそ??!」

 脳がビックリするような衝撃を受けるとはこう言うことを言うのだと思うほど、思っていた味と違うことにクラクラとして台に手をついた。

「鯛みそって・・・何?!」

 根本的な疑問にぶち当たって缶に書かれた表示を見ると、味噌に水あめなどの材料が書かれていた。

「これ、味噌田楽っぽい物なんじゃない?」

 止めの様なセリフに、あの店主の言いたかった事を理解して頭を抱えた。これから、この缶の中身をどう使えば良いのかと途方に暮れる。

 あの時代、ガラケーだった頃のネット検索はパソコンが主流で、今のように直ぐにGoogle先生に尋ねることもできず、田楽のような鯛みそを大根やナスにつけて消費するしかなかった。

 隣にあった焼き鳥缶を買ってくれば良かったのか。しかし、今思い返しても奇跡的な思い違いをしていたのだと反省するばかりだ。

 今ならば、桃屋の鯛みそ缶にはいろいろな使い道があることが分かる。舐め味噌以外にも、ただ焼いたナスや揚げたナスに塗っても美味しいが、チーズとの相性が良い。

 油揚げの中に炒めたナスに鯛みそでちょこっと味付けをして、チーズと一緒に入れてフライパンでじっくり焼き色をつけても美味しい。

 昔は存在を知らないでその内容に驚いたが、今は結構面白い調味料の1つとして認識しているし使っている。

 人間、未知なるものに出くわした時に、勘違いで済ませるか、はたまた未知なる挑戦と受け取るかは自分次第だが、主人と店主を巻き込んだ事には、心から詫びたい。

・・・・・

 後日、店主に聞かれて事のあらましを話したが、遠くの方を見ながら笑っていた。きっと、甘党ではない主人を気の毒に思っているのだろう。

 怒らず笑ってすませる主人と、主人を気遣う店主、優しい対応の二人に感謝した。


 それから数十年経って、スーパーで思いがけないものを見つけた。缶詰コーナーで見るたびに笑顔になる『鯛みそ』。そして、その近くにメーカーは違えど『鯛めし』なるものを発見!結構、すごいラインナップだ。近頃の缶詰のクオリティは凄いものがある。

 そのなかでも、魚の缶詰はとても重宝する。特にトロ鰯やサバ、サンマなどの缶詰は大根おろしを添えれば1品料理になる。しかも、DHA・EPAなどの栄養が入ったままだ。骨も柔らかくなっているので、栄養を補う点でも、熱処理がされているのでアニサキスの心配もない。


 ちなみに主人は、桃屋の瓶詰にハマっている。缶詰も凄いが瓶詰も凄いのだ。

 ある日、いきなり買ってきて、冷奴や揚げ豆腐に乗せているだけではなく、私の代わりに主人が生姜焼きを作る時は『焼いて和えるだけ!』とフライパンの中で混ぜている。

 塩分表示はどうなのかと見たら、100g辺りの食塩相当量が3.0gだった。凄く味と塩味の配分量が絶妙だ。使う量で塩分は変わる。オリジナルの調味料が黄金比のような美味しさならば、使い方次第で減塩もできて、美味しく食べることもできる。

 要は、量とファーストアプローチする場所に使えば、味蕾を通して脳を満足させながら美味しく頂くことも可能なのだと、企業の底力を見た気がした。

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