愛犬の「美味しい物ですどうぞ」

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愛犬は私の親友に奇妙な『接待』をする子だった。

親友が遊びに来ると、匂いチェックをする愛犬。足の匂いで何が分かるのか?

長靴型のスリッパを出して親友が使うのは毎度のことなのだが、この日の愛犬は、彼女が席に座るとジッと机の上を見上げる。

丸いガラステーブルは下から丸見えだが、紅茶のティーセットを見たところで、何があるかは分からないと思っていた。

「うひゃ!」

「何?どうしたの?」

「あはは!ちょっと、この子、何?!」

変な声を上げた親友を見ると、彼女が長靴スリッパを脱いで覗き込んでいる。傾けたスリッパから転げ落ちたのは・・・

豚の鼻の燻製(未開封)だった。

「・・・・なにこれ?」

「それ、愛犬の大好物。お礼言ってから返してみて。」

親友は「ありがとう」と良いながら、彼女の足元へ返した。がしかし!それを咥えて親友の長靴スリッパの隙間に再び入れようとする愛犬。

丸テーブルがガラスなだけに、さっきからこれをやっていたのかと笑いが込み上げる。そして、愛犬に豚鼻の燻製を丁寧に返し、スリッパに入れられ・・・と3回ほど繰り返した後、愛犬は盛大なため息をついた。

「良かった!諦めてくれた!」

喜ぶ親友が、再び叫んだのはそれから数分後の出来事。

「何よぉ、これ?」

今度は牛のヒズメだった。何故入れるんだろう?と愛犬を見ていると、「これで満足してもらえた?」と言わんばかりに笑顔だ。

「・・・・分かった気がする。朝ご飯、食べてないでしょ?」

何でわかったの?と尋ねる親友にクッキーを出し、愛犬用のパンも出す。

「蹄も丁重に返して、その後にコレをお礼としてあげてから、目の前でクッキー食べて。」

言われた通りにした親友の顔をジッと見つめて、彼女がクッキーを数枚食べ終えた後からぴったりと何もしなくなった愛犬。親友は驚いてどうして?を繰り返していたが、簡単な事だった。

朝ご飯を抜いて朝風呂には入って来た親友に、これでも食べて?と愛犬からおすそ分けを貰ったのだ。しつこいほどに。

「え~私、犬に憐れみを受けてたの?!」

「いや、憐みって程じゃないけど、ずぼらな性格が匂いで感知できるとはびっくりだわ。」

自分で『憐み』なんて言ってしまう素直なところが、私は大好きだ。しかし、犬の察知能力は凄い。

それからしばらくの間、親友は愛犬に「今日はご飯食べたよ!」と伝えるのだった。

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