学び始めと人生の転換、そして教育実習2

お題の「偉大な教師とは~」に「教育実習先の校長先生の言葉」を思い出しながら答えていたら、昔の記憶が鮮明に浮かんできた。結構ヘビーな記憶もあるが、少し自分を振り返ってみようと思う。


周囲の期待交じり半分、興味半分の視線を受けながら教育実習初日の打ち合わせは始まった。

早速の洗礼。

「教える事は誰でもできる。でも理解させることは難しく、誰でもできることではない。何事にも理解させることの出来る教師になってください。」

言われた瞬間、優しい声なのに威厳を感じ背筋が伸びた。

「教育者は自分にこそ厳しく。全ての子に向き合い、1人も欠けることなく理解させることのできる理解者であって欲しい。」

崇高な意識ってこういうことを言うのではないか?と思わせるような校長の言葉。理想は高く。自分に限界を作らない。そう言われている気がした。

顔が自然に固まっていたのか、校長は笑顔で質問してきた。

「先ずは、貴女がどのように生徒と向き合うか、私に教えてください。」

私は考えた。隣に座っている担当教師が心配そうにこちらを見たが、先生の持っている物に視線を向けた。

「生徒の名前の読み方と特徴、教えて下さい。初日、間違えずに生徒の名前を読み上げたいです。」

私の答えは及第点だったのか、校長は深く頷いた。それでも、実際に出来るかははなはだ疑問だが、一生分の記憶力を使い切る気持ちで頑張るしかない。


初日、1年C組に入った私は、子供たちの視線を一気に浴びた。教壇の上に立って自己紹介した後、出席簿を広げた私は机の間を通りながら生徒のフルネームで呼んでいく。読みづらい苗字もあるのだが、事前に教えてもらった通りに読んでいく。

「先生すげー!俺の名前間違わなかった!俺、タッツー!」

おお~!と驚く歓声と次は?と期待の目が刺さる。教えてくれたニックネームを名前の横に小さく書き込む。

「先生ズルしてんじゃないの~?」と名簿をのぞき込む女子もいたが、そんなヘマはしない。1クラス分丸暗記したのだから。全員間違わずに、ニックネームまでゲットできたのは僥倖だった。

初日にしては掴みはOKだと担任の先生にも褒められた。がしかし!それを聞いたA組B組の担任が出席簿の写しを渡してきた。A~Fまである1年のクラスのうち、家庭科で受け持つのはA~Cの3クラスなのだ。

「うちの子たちの名前も覚えられる?」

マジか?!

愕然としたが、子供たちの間で「あの先生名前間違えなかった」という噂が広まってしまっている。脳のキャパシティーは一気に限界になりそうだが、やるしかない。

1年生の家庭科は一クラスずつで、45分授業の2時間分なのだ。コミュニケーションでやり取りするには、名前を覚えなくてはならない。なけなしの記憶力全開でやりこなした私。

実は教育実習といっても、最初の1~2日は見学で授業のフローチャート作成をして授業に挑むのだ。空いている時間に他の学年や他教科の見学をして見分を広める。

そして、最後の研究授業の発表に至る。この研究授業、短大の教育実習担当の先生が視察に来るし、時間のある先生方が見に来るのだ。校長の話では毎年2~3人が見に来る程度と言っていたので、緊張しない様に日々の授業で実践していくしかなかった。


教育実習は順調に始まった。

人は最初の個である『名前』を呼ばれることに親しみや嬉しさを感じると言う。多感な時期の中学生なら尚更だと思う。

丁寧に、間違えない様に、その時の私の記憶力を総動員して頑張った。

この時、まだあんなヘビーな事件が起こるとは思わなかったので、ただただ、自分の思い付きが彼らとの距離を縮めたことに心から喜んでいた。

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