ウチの愛猫は、野良猫だった。彼女がどんな決断をして我が家に来てくれたかは分からない。でも、「ウチの子になる?その気があったら家に来てね。」そんな感じの言葉を投げかけた。
よもや、次の日に玄関先で「来たニャ!」と鳴いている猫の姿を見るまでは。猫が私の言葉を理解して、数ある家の中から私たちの玄関にやってくるなどとは思いもしなかった。
私たちは初めての猫を、喜んで向かい入れた。約束は守られ、愛猫となった彼女は外に出ない。野良猫は本来、外に出たがる筈なのだけど、網戸が開いていても、玄関の開け閉めをしていても、見送るだけだった。
愛猫と生活し始めて、愛犬とよく似た行動をすることに気がついた。甲斐犬の『黒虎』と呼ばれる種類の愛犬。同じような黒い愛猫。猫なのに犬っぽい。トンボじゃらしで遊んでいると、猫特有の獲物を追うハンターな一面を見せてくれる。
シャーも唸り声も発さない穏やかな愛猫に、「野良猫魂」は無くなってしまったのだろうかと心配した主人が、鳥の羽でできた玩具を買ってきた。釣り具のような物に、ワイヤーで鳥の玩具が付いているものだ。ビュンビュン振ると、鳥が飛んでいるように見える。

今は、昼は私が相手をし、夜中は主人が鳥の玩具で遊ぶのが日課となった。部屋の中を鳥を追いかけて走り回る愛猫。私が相手だといろいろな場所に鳥を止まらせるので、愛猫は狙いを定めて飛び掛かる。
ところが、1週間ほど前から鳥が飛び回るのを寝っ転がって手だけを出すようになった。
飽きてしまったのだろうか?
心配していると、疑問は次の日に明らかになった。
写真の茶色の物体は切り株をモチーフにした猫の家。そこに決定的な瞬間が残っていた!
切り株に残る猫の影。
愛猫は、鳥を追いかけて切り株の上に止まった鳥を取ろうと、体当たりしてしまったらしい。無残にも、彼女の目測を誤って激突した影がクッキリと残り、両足で踏ん張ったのだろう、爪痕が長くついている。
切り株自体は、柔らかい素材で覆われ、体当たりしても揺れるので衝撃は緩和されただろうが、本人は驚いたかもしれないし、自分の失態が嫌だったのかもしれない。
この痕がついてから、彼女の鳥遊びは、ハンターではなく、魚釣りゲームのような感覚で目の前に来た鳥を捕まえる遊びになってしまった。
彼女の野性味は、実体験の教訓と共に変わっていくらしい。ウチの愛猫が穏やかなのは、人生から学ぶ派だったからかもしれない。
